【エピソード15】アルバムレビュー『安全地帯 Ⅱ 』安全地帯

2025年4月29日Music & Artists

【エピソード15】アルバムレビュー『安全地帯 Ⅱ 』安全地帯
カイエダ

カイエダです。
この記事では、安全地帯の名盤『安全地帯II』を、ファン目線で深くレビューしています。
師匠・井上陽水さんとの共作「ワインレッドの心」の大ヒットがもたらした光と影、作詞家・松井五郎さんとの邂逅、バンドとしての進化を、今改めて見つめ直します。

安全地帯Ⅱ』概要

『安全地帯II』は、1984年5月1日にKitty Recordsからリリースされた、安全地帯の2枚目のオリジナル・アルバムです。​この作品は、前作『安全地帯I Remember to Remember』から約1年4ヶ月ぶりのリリースであり、バンドにとって大きな転機となりました。​

アルバムには、サントリー「赤玉パンチ」のCMソングとして使用され、オリコンシングルチャートで第1位を獲得した「ワインレッドの心」や、同じく先行シングルとしてリリースされた「真夜中すぎの恋」が収録されています。​また、「マスカレード」は後にシングルカットされました。​

レコーディングは1983年6月から1984年3月まで、KRSスタジオおよび伊豆スタジオで行われました。​
このアルバムの制作において、作詞は井上陽水さんと松井五郎さんが担当し、作曲は全曲KINGが手掛けています。​
特に松井五郎さんとの共作は本作以降、安全地帯の楽曲の大半を占めるようになりました。​

音楽性としては、KINGによる歌謡曲を意識したメロディと、松井五郎さんによる都会的な恋愛を描いた歌詞が特徴的です。​
この組み合わせが、バンドの新たな方向性を示す重要な作品となりました。​

アルバムはオリコンアルバムチャートで最高位第2位を記録し、1984年度の年間ランキングでは第19位を獲得するなど、商業的に成功を収めました。​

また、アルバム制作時のエピソードとして、プロデューサーの星勝 氏から作曲を井上陽水さんに依頼する提案があった際、KINGは「曲は自分で作る。それができないならバンドを辞めて北海道に帰る」と主張し、自ら「ワインレッドの心」を完成させたという逸話があります。​
この曲が大ヒットしたことで、安全地帯は一躍脚光を浴びることに。​

『安全地帯II』は、その後の安全地帯の音楽的方向性を決定づけ、商業的成功を象徴する作品となりました。

安全地帯Ⅱ』収録曲&勝手なコメント

編曲はいずれも星勝、安全地帯。

  1. ワインレッドの心(作詞:井上陽水 作曲:玉置浩二)詳細はページ下で
    …言わずと知れた、ヒット曲。私はこの曲がヒットした時は、まだ安全地帯のことは特に好きではありませんでした。1984年ですから、私が小学校4年生のときですね。このあと恐ろしく好きになるとかまったく予想すらできていませんでした。
    大人の歌う曲ぐらいのイメージでした。今聴いても、大人な内容です。全てを言わずに、こちら側に想像させるという常套手段は、陽水さんならではの世界観です。KING曰く「歌謡曲を意識した曲」ということですが、とはいえ日本の歌謡曲にこれまでにはなかったニュアンスを含んだ曲長は、じわじわと影響力を拡大し、KINGのソングライターとしての才能を見せしめた曲となりました。
  2. 真夜中すぎの恋(作詞:井上陽水 作曲:玉置浩二)
    …「ワインレッドの心」の次にシングルカットされた曲。こちらはロックチューンですね。こちらも陽水さんの作詞なんですね。陽水さん、真夜中すぎの恋はセルフカバーしていらっしゃいませんけれども、もしセルフカバーされたらボサノバ風になったりして…!?と勝手に想像するのもおもしろいです。
    私はこの曲はなぜかハモリパートで歌ってしまうんですよね。KINGのボーカルを活かしたいからでしょうか笑
  3. 眠れない隣人(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    …テンポがいい曲。「たぶん」が多用されていてライブで聴いたら楽しそうだな!と思ってました。ライブ映像では1987年"To me"安全地帯LIVEで、4thアルバムの「こしゃくなTEL」からのメドレーとして歌われています。その後のKINGのソロコンサートで歌われているテイクは、とてもスピーディーです!
  4. マスカレード(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    …「真夜中すぎの恋」からおよそ3か月ぶりにリリースされたシングル。「あなたは嘘つきな薔薇」なんて、すごいフレーズです。この曲、割とベースラインが目立っていて個人的にかなり好きな演奏です。シングルチャート的には最高位59位ということで振るいませんでしたが、この後爆発するヒット曲が控えています(また次回のアルバムレビューで)…。
  5. あなたに(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    …この曲。子供の頃はそんなに良さがわからない曲のひとつでした。出戻ってから聴くと、響き方が違うというか。すごくジーンとする曲だったんだ、と感じています。急に聴きたくなりますね。その後もいろんなバージョンで収めらている名曲のひとつです。
  6. …ふたり…(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    KINGのファルセットがとても美しいバラード。この後、安全地帯というと「バラードバンド」の代表のようになっていってしまうのですが、私はそれはそれで少し寂しく感じています。もっと泥臭くていいですよ、と本気で思っています。ご本人たちがやりたい音楽だったらそれでいいのでしょうけれども。
  7. 真夏のマリア(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    軽快なロック。とはいえポップスといえばポップスなのでしょうか。安全地帯、そういえば夏のイメージがあまりないです。北海道ご出身ということで、冬のイメージがとても強いですね。子供の頃ベストテンでKINGがおっしゃっていた(他の曲に関してですが)「この曲は北海道の冬をイメージして作った」というセリフを何故か覚えています。北海道の冬とは過酷そうです…!
    真夏のマリアは私の中でも珍しく、安全地帯で夏を彷彿させる曲です。曲名通りです笑
  8. つり下がったハート(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    この手の曲、割とKING得意なんじゃないでしょうか。他のバンドやアーティストで聴いたことない曲調ですよね。不思議なテイストの曲にちゃんと合わせてアレンジできる安全地帯メンバーがやっぱりすごいんじゃないでしょうか。
  9. ダンサー(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    前の曲「つり下がったハート」からの続きから入っていくイントロがとても印象的。アレンジはポップスのようにされていますが結構ロックですよねこの曲。シングルカットされていないとしても、この曲もとても官能的というかそそる曲です。途中で入るフラメンコっぽいアコギが効果的すぎる…。これは武沢さんなのでしょうか。ダンサーですもんね。情熱的なギターが合っています。かなり好きな曲です。
  10. La-La-La(作詞:松井五郎 作曲:玉置浩二)
    エンディングっぽい曲だな…、とうっかりスルーっと聴いてしまいそうな曲なんですが、いやいや。すごいですよこの曲。歌詞のイマジネーションが半端ないです。

松井五郎さんとの出会い

安全地帯の音楽における、大きなターニングポイント──
それが、作詞家・松井五郎さんとの出会いです。

『安全地帯II』は、KINGが全曲の作曲を手がける一方で、作詞は松井五郎さんと井上陽水さんの二人が担っています。
このアルバムを機に、松井五郎さんとのタッグが本格的にスタートし、以降、安全地帯の代表的な楽曲の数々がこの黄金コンビによって生み出されていきます。

「松井五郎=都会の香りをまとった言葉」

松井さんの詞は、恋の機微や孤独、情熱を非常に繊細かつエレガントに描き出します。
ときには抽象的で、ときにはドラマチック。
KINGのメロディが持つ情熱や哀愁に、都会的で洗練された詞がぴたりと重なるのです。

“松井五郎×玉置浩二”が生んだ名曲たちの原点

『安全地帯II』に収録された「ワインレッドの心」「マスカレード」「あなたに」「真夏のマリア」「Lα-Lα-Lα」──
これらは、松井さんの詞があってこそ成立したといっても過言ではありません。

恋の甘さと痛みが同居するその世界観は、このアルバムで確立され、“安全地帯=大人の恋愛歌”という印象を世に深く刻みつけたのです。

松井五郎さんの詞は、BOØWYっぽい…?

『安全地帯II』のレビューなどを読んでいると、「松井五郎さんが後に手掛けたBOØWYや氷室京介、吉川晃司の世界観を思わせる詞がある」といった意見を目にすることがあります。
特に「真夏のマリア」の跳ねるようなサウンドやニューウェイヴっぽさから、“一時期のBOØWYのようだ”と評されることもあるようです。

でも正直に言うと…私はあまりそうは感じていません。

もちろん、松井五郎さんがBOØWYや氷室京介さんに詞を提供されていたことは事実ですし、言葉の鋭さやリズム感、情熱的な部分では共通する要素もあるのかもしれません。
けれど、安全地帯での詞は、もっと静かで、それでいて内に秘める情熱。そして恋や孤独、哀しみを描いている印象なんです。

BOØWYが「若者の衝動」「葛藤」「欲望」を全力でぶつけてくるバンドだとしたら、
安全地帯は「恋の機微」「秘めた想い」「哀しみの余韻」を、香りのようにふわっと漂わせてくるバンド。それが色っぽい。

そしてその“色気”が、あの若さで既に完成していたという…恐るべしです。

どちらも松井さんが描いた世界であることに間違いはないのに、こんなにも違う色を放つのは、本当にすごいことだなと思います。

「ワインレッドの心」について

引用部分はいずれもWikipediaからです。
KING、ヒット曲が生まれたことで能力を引き出してもらったことはもらったんですが、バンド安全地帯としてのアイデンティティを見失うきっかけになってしまったんですね…。
バンドとして歩む過程が、(もうひとつの推しバンドである)THE ALFEEと安全地帯、まったくの真逆です。

できあがるまでの背景

1982年2月25日にシングル「萠黄色のスナップ」でデビューした安全地帯であったが、続く2枚目のシングル「オン・マイ・ウェイ」(1982年)、3枚目のシングル「ラスベガス・タイフーン」(1983年)をリリースするも売上が伸びず、世間での認知度も低い状態であった。ヒット曲が出ないことに苦心していたプロデューサーの星は、作曲を井上に依頼することをメンバーに打診するが、玉置はその提案に対し「曲は俺が自分で作る。それができないんならバンド辞めて北海道に帰ります」と自身での作曲に固執した。確実にヒットする曲を制作しなくてはならない状態に陥った玉置は、本来はドゥービー・ブラザーズのようなロックバンドを目指していたが、「歌謡曲っぽくて売れそうな感じの曲」の制作のため1週間自宅に閉じこもることとなった。

その後玉置は「ワインレッドの心」を完成させ、同曲を聴いたギタリストの矢萩渉は「それまでの曲とは全然違っていた」と応え、メンバーに鮮烈な印象を残すこととなった。玉置は同時期に「恋の予感」(1984年)、「碧い瞳のエリス」(1985年)、「プルシアンブルーの肖像」(1986年)等も同時に作曲しており、後にヒットする曲は「ワインレッドの心」のリリース前に既に原型を完成させていた。

曲の圧倒的評価

音楽情報サイト『CDジャーナル』では、「井上陽水の手による歌詞と相まって、まったりと濃密なムードが漂う」と表記されている。

エンタメ情報ポータルサイトの『エンタメウィーク』では、歌詞について「冒頭の部分では恋の軽妙さと奥行きを教えてくれる。西洋の戯曲を思い浮かべさせられるような言葉並びに、現実と少しかけ離れた情感が宿る」と表現したほか、「ワインレッド」という言葉が単なる色味ではなく「あの消えそうに燃えそうなワインレッド」という一節の「あの」という部分が想像力を掻き立てると指摘、さらに本作は「理性と本能がゆらぎ、禁断の果実と対峙する大人たちの心情を表し、危険な香りのする恋模様を描いている」と表記している。

ベスト・アルバム『ALL TIME BEST』(2017年)の楽曲解説では、本作に関して「情熱で切ないメロディラインと、どこか気だるさを感じさせる、ムードあるボーカル」で構成されている楽曲であると述べ、コマーシャルソングやテレビドラマ主題歌として使用されたことにより「一気にお茶の間に浸透した」と指摘している。また、同サイトでは本作によって安全地帯の快進撃が始まったと表記しているほか、多数のミュージシャンによってカバーされていることを踏まえて「全く色褪せる事がない、日本のポップスシーン史に残る名曲のひとつでもある」と表記している。

本作の歌詞や歌唱力に関しては肯定的な意見が多く挙げられている。音楽情報サイト『CDジャーナル』では、「“安全地帯”の名前を世間に知らしめた、最初のヒット曲。」と指摘しており、「優しい中に、どこか官能的な響きを保つヴォーカルも悩ましい」と歌唱力に関して肯定的に評価している。エンタメ情報ポータルサイトの『エンタメウィーク』では、井上と玉置の実力に関して「詩を書かせたら右に出るものはいない井上陽水とその歌声で畏敬の念を抱かせる玉置浩二、彼らが織りなした作品は秀逸としか考えられない」と表現し、「ワインレッドの心」という言葉が「ストーリーを引き締める」事や「『恋』という抽象的な心の動きに対し『ワインレッド』と具体的な色を指し示す」と指摘した上で「これにより、この曲に強力な彩りが芽生えたのである」と称賛した。また玉置の歌唱力に関して「心の琴線に触れる歌声」と表現し、「玄奥な感情まで表現している」とした上で「名曲として扱われるのはもはや必然」と絶賛した。

「自分たちはロックバンドなのに」。KINGの中での違和感。

本作のヒットで生活が激変したことに関して玉置は窮屈さを感じていたといい、また自分たちはロックバンドのつもりであったが本作のイメージが付き過ぎたことで「ニューミュージック界のクール・ファイブ」と呼ばれたことに違和感を覚えていた。玉置は後に「〈ワインレッド〉が破滅の始まりだった。あれがもし〈ワインレッド〉ではなくて、その前に俺たちが作っていたような曲で、ちゃんとバンド活動が維持できるようになってたら、俺の人生はまったく変わっていたと思う」と述べている。プロデューサーの星はこれに関して、「あれ以外には安全地帯に注目してもらえる形を考えられなかった。ただ、玉置自身が安全地帯をああいう形じゃやりたくなかった、と思っていて、いまでもそれを引きずっているとしたら、半分謝ろうかな、と思う。だけど半分は、これでよかった、と言うしかないですね」と述べている。その後、2006年の段階で玉置は本作について「あれは自分が作った曲だし、世の中に認めてもらった曲」、「人の曲のような感じもする。ひとり歩きしてるしね」と述べており、ライブにおいては形を変えて歌い続ける意思を示した他、「今は単純に"安全地帯の代表曲"みたいな感じ」とも発言している。

確かにファーストアルバムは、ドゥービー・ブラザーズみたいなソウルフルでカントリーっぽい(どこか牧歌的な)ロックテイストのあるものでした。
もともとそういうの、やりたかったんですもんね。
KING的に、北海道からメンバー連れてきちゃったの自分だし、辞めさせたメンバーもいるし、売れなきゃ…、という想いと妥協もあったのかな…と思います。
ここを。
オフコースみたいに「自分たちのやりたい方向性でしかやらない」と貫いたり、もしくはTHE ALFEEみたいに一度は大人の言うことを聞いてその通りやってみたけれども売れず、発売直前で発禁になったシングルもあり、結果、自分たち全員で試行錯誤しながらライブハウスを回り、ファンを喜ばせるために「おもしろさ」も鍛えていって、メガヒット曲がなくてもファンがどんどん増え、そして大事にして、武道館ライブ開催!くらいの自分たちで苦節を経験した上で活路を見出せていたら、全く違ったバンド人生だったんでしょう。

DoobieといえばLong Train Runnin’!
いいですよね!名曲〜〜〜!

もともとKINGのワンマンバンドであることも所以だとも思いますが(才能が凄まじいですから…)、KINGのその後の不倫恋愛事情や数多くの恋愛報道、精神疾患や病気などを考えると、予想以上にこの曲がKINGに課した重荷というのは、大きかったんじゃないのかな…と思います。
人にとって、ストレスは心にも体にも影響大きすぎるので。

とはいえ、です。音楽的評価がとても高いこの曲。
「全く色褪せる事がない、日本のポップスシーン史に残る名曲のひとつ」と評価されるだなんて、名誉以外の何物でもないはずです。

カイエダ

一気にスターへの階段を駆け上がった安全地帯。
ここからさらに安全地帯はどんな進化を遂げるのか…。
また続きをお楽しみに…!

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アルフィーの実質的ファーストアルバムと呼び名の高い『TIME AND TIDE』についてレビューしてみました。
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