【エピソード17】アルバムレビュー『安全地帯III〜抱きしめたい』安全地帯

2025年5月3日Music & Artists

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【エピソード17】アルバムレビュー『安全地帯III〜抱きしめたい』安全地帯
カイエダ

カイエダです。
1984年の冬、安全地帯が発表したアルバム『安全地帯III〜抱きしめたい』は、今なお色褪せないロマンティックな輝きを放つ名盤です。
情感豊かなラブソングの数々で多くのファンを魅了し、この作品は安全地帯の人気と実力を確固たるものにしました。
この記事では、当時の背景や制作エピソード、そして音楽的魅力とその反響を、1ファンの視点でひも解いてみたいと思います。

安全地帯III〜抱きしめたい』概要

1984年当時、安全地帯はこちらの記事でもお伝えしたように「ワインレッドの心」の大ヒットで一躍スターの座へ駆け上がっていました。
このシングルはオリコン1位を記録し、CMソングにも起用されるなど注目を集めて約71万枚を売り上げています。
その勢いに乗って5月には2ndアルバム『安全地帯II』をリリース。
作詞家に松井五郎さんを新たに迎え、都会的な恋愛を想起させる歌詞とKINGによる歌謡曲テイストの楽曲で構成されたこのアルバムも、オリコン最高2位・約54万枚のヒットとなりました。
立て続けの成功によりバンドの環境は一変し、ライブハウスに押し寄せる観客で1日2公演を行うほどに。
1984年4月の渋谷エッグマンでのステージを最後に小規模ライブハウスでの公演は卒業し、8月には渋谷公会堂で初のホールコンサートを開催するまでになりました。
そうした飛躍の只中、前作からわずか7ヶ月後の同年12月に送り出されたのが、3枚目の本作『安全地帯III〜抱きしめたい』です。

安全地帯III〜抱きしめたい

キティ伊豆スタジオでの合宿生活で

アルバム制作は1984年9月から11月にかけて、伊豆半島の高原にあるキティ伊豆スタジオなどで集中的に行われました。前作に9ヶ月を費やしたのに対し、本作のレコーディングは約2ヶ月で完了し、バンドは勢いそのまま一気に仕上げています。プロデュースは前作に引き続き名匠・星勝氏と金子章平氏が担当。また作詞を手掛ける松井五郎さんもレコーディングに同行し、KINGと寝食を共にしながら作品作りに臨みました。
合宿のような共同生活を通じて絆を深め、松井さんはKINGの人柄や内面に触れていき、松井さんの歌詞にも大きな影響を与えたようです。

ポップなメロディーに大胆かつ緻密なアレンジを施した意欲作

KINGの歌声は、たとえ刹那的で生々しい恋の情景を歌っても、不思議と上品に響く力があります。
時にはその声そのものが甘い誘惑となって、聴く者の心の深くまで静かに入り込んでくるようです。
本作でも、そんなKINGの艶やかなボーカルが終始冴え渡り、アルバム全体にエレガントな統一感を与えています。
一方で楽曲自体はバラエティ豊かです。
ロックの熱量、シティ・ポップ的なおしゃれさ、エレクトロな音色や甘いバラードといった多彩な要素が凝縮され、当時最先端のニューミュージックの空気感と安全地帯らしい歌心が見事に調和しています。

安全地帯III〜抱きしめたい』収録曲&コメント

作曲はいずれも玉置浩二。
編曲はいずれも星勝、安全地帯。

  1. yのテンション(作詞:松井五郎)
    …本作の制作時、KINGは当時の奥様と破局寸前という繊細な状況にあり、その揺れる心理が楽曲にも投影されています。
    タイトルの「Y」はアルファベット最後の文字「Z=終局」に至る直前、つまり関係の終わりが迫るギリギリの状態を象徴しています。
    当初この曲のボーカル録りは仮の英語混じりの歌詞で行われましたが、KINGが意図した感情をうまく表現できず難航しました。
    翌日、松井さんが歌詞を大幅に書き直してKING提示したところ深く共鳴し、改めてスタジオで熱唱したそうです。
    香港の人気歌手アーロン・クオック(郭富城)さんは「yのテンション」を広東語でカバーし、1990年代にアルバム収録しています。
  2. Lazy Daisy(作詞:松井五郎)
    …ギターのポロポロした音色が心地いいイントロから始まります。
    本当のところは知りませんけれども、恋の始まりを描いているよう。ウキウキワクワク、今が一番大好き、今が一番楽しい!時期の曲なイメージですね。間奏の展開が結構大胆だなーと子供ながらに思っていました。
    もしかしたら…、ですが、もうこの頃にはKINGは例の女優さんとすでに出会って付き合っていて、それを松井さんもご存知だったのかな、と思いますがどうなんでしょうか。
  3. Happiness(作詞:松井五郎)
    …この曲、言葉遊び的な要素もあっておもしろいですよね。この曲も恋愛の楽しい時の曲ですよね。
    そして大人の恋愛を楽しんでいる風というか。
    これはもう、女優さんと付き合ってる情景が浮かんじゃいますね。
  4. ブルーに泣いてる(作詞:松井五郎)
    …シングルカットにならない曲でさえ、メロディが印象的でプレイも素晴らしい。その代表格の曲と言えるのではないでしょうか。英語詞に翻訳され、米国人シンガーのノーマン・ドジャーによる「Song in Blue」として提供されて1986年にブリヂストンタイヤのCMソングとしてオンエアされています。
  5. 恋の予感(作詞:井上陽水)
    …「抱きしめたい」の中で唯一、この曲だけが陽水さんの作詞です。この曲の制作秘話は、こちらに記述していますのでご覧ください。
    まだ私が安全地帯のファンになる前でしたが、テレビ中継でKINGが「この曲は北海道の冬を思い出す」と仰っていたのを、子供心に覚えています。確かに冬っぽい曲です。白い息が見えるようです。
  6. Kissから(作詞:松井五郎)
    …ドラムから始まるこの曲。詩を見ると…。エッチな世界ですね〜〜笑。KINGはこういう曲がとてもよく似合います。こちら側に恋愛のドラマを想像させるような世界観。KINGが破滅的な恋をしていたから、より一層臨場感的なものを味合わせてくれたのでしょうね。
  7. (作詞:松井五郎)
    …松井さんが制作の合間にジョン・レノンゆかりの高原のホテル(軽井沢のホテルですね)を訪れる機会があり、自然の中で都会の喧騒を思い出してふと立ち止まった自らの心境を「風」という楽曲の詞に綴ったとのこと。別推しの王子は、安全地帯の中でこの曲が一番好き!と80年代KINGと王子二人が共演したラジオで仰っていました。
  8. アトリエ(作詞:松井五郎)
    …先述の通り、KINGが私生活で破綻を迎えて茫然自失の時に、松井さんは声をかける代わりに静かにこの曲の歌詞を書き上げたそうです。確かに「別れた」とはひとことも言っていないのに、別れたことを暗に示す美しくも哀しい歌です。
    ですがすでに新恋人の存在も匂わせています。私がこの曲をはじめて聴いた小学生の時にはすでに、恋人である女優さんの影を感じていました。
  9. エクスタシー(作詞:松井五郎)
    …もう黒じゃん、という印象をまず与えてくれる曲です笑。こういう曲を作れるって相当技術高くないとできないと思うんです。かなり変拍子使っているし、もっともっと音楽的に評価されていいですよね。安全地帯って。
  10. 瞳を閉じて(作詞:松井五郎)
    …これも昔の愛していた時期を振り返るようなニュアンスのある、優しくも儚く、寂しさを感じさせる曲です。とはいえ、なぜか温かみも感じるんですよね。KINGのファルセットがとても温かいのです。エンディングにふさわしい曲です。こちらの曲もアーロン・クオック(郭富城)さんがカバーし、アルバム収録しています。

松井五郎さんの詩の世界と、楽曲の奥行き

松井五郎さんは前作ではKINGのキャラクターを抽象的で神秘的な存在として表現していましたが、本作では一転して、KING自身がテレビ出演などで広く世間に知られたことを踏まえ、曲中の「主人公」をより身近でリアルな男性像として描いています。
たとえば女性に呼びかける二人称も「君」ではなく終始「あなた」で統一されており、大人の女性に語りかけるような丁寧で落ち着いた語感が印象的です。
愛する人への想いをストレートに伝えるタイトル「抱きしめたい」になぞらえるかのように、言葉の一つひとつが優しく包み込むような余韻を持っています。

唯一「恋の予感」は陽水さんの作詞

また本作で唯一松井さん以外が作詞した楽曲「恋の予感」には、師匠・井上陽水さんがペンを執りました。
実は松井さんも当初この曲の歌詞を書いてみたものの約30回も書き直すほど難航し、最終的に陽水さんの詞が採用された経緯があるようです。
完成した歌詞を目にした松井さんは、「書かないことの美学」を感じさせる引き算の表現に「ああ、これで良いんだ」と目から鱗が落ちる思いだったと振り返っています。
こうした作詞面でのエピソードからも、楽曲ごとに異なる個性や美学が追求されていたことが伺え、本作の奥行きの深さを感じさせます。
音楽で引き算できる人って、意外と少ないです。
大体は詰め込んじゃいますからね。
私の中で一番「引き算の妙」を使いこなせているのは、Jazz Giantのマイルス・デイヴィス。
陽水さんの歌詞も、ぶっちゃけ「え?」という世界観多いのですが、引き算してるからなんでしょうね〜。
陽水さんがセルフカバーで歌った「恋の予感」も、サラッと大人な雰囲気で大好きです。

リリースと時代を超えた反響

『安全地帯III〜抱きしめたい』は1984年12月1日、前作からわずか7ヶ月というハイペースで世に送り出されました。
フォーマットはアナログレコード、カセットテープ、そして当時浸透し始めたCDの3形態が同時発売され、バンドの飛ぶ鳥を落とす勢いを象徴するような大々的リリースとなりました。
ジャケット写真もユニークで印象的!すごくかっこいいですよね。KINGが左手に3本の指を立て、その上を右手で小指だけ立てて覆うポーズを取っていますが、これは「(左手の3本指が意味する)たくさんの女性がいても、好きなのはあなた(右手の小指)だけ」というメッセージが込められているのだとか。アルバムタイトル『抱きしめたい』にふさわしいロマンチックな遊び心が感じられ、手の仕草一つにも粋な演出が光ります。

発売後、アルバムはすぐさまチャートを駆け上がり、オリコンのLPアルバムチャートで最高3位を記録。
カセットテープチャートでは1位に輝きました。
LPとカセットを合わせた売上は最終的に約78万枚に達し、1985年の年間アルバム売上ランキングでは第3位という高順位を獲得しています。
冬の終わりから春先にかけて、文字通り一年近くもの長きにわたってチャートに留まり続けたロングヒットとなりました。
併せてシングルカットされた「恋の予感」もまた大きな反響を呼びます。
1984年10月に先行リリースされたこの曲はオリコンシングルチャートで3位まで上昇し、約43万枚を売り上げるヒットに。
TBS系『ザ・ベストテン』や日本テレビ系『ザ・トップテン』といった当時人気絶頂の音楽番組でも、年末年始にかけて「恋の予感」が連週で上位にランクインしました。
安全地帯は毎週のようにお茶の間のテレビ画面に登場し、その存在感を日本中に印象付けたのです。
さらに前年からの「ワインレッドの心」も同じく年間ベストテン内に残るなど、1984年から85年にかけての安全地帯は、まさにヒットチャートを席巻していたと言えるでしょう。

こうした名曲揃いのアルバムは、その後も折に触れて再評価され続けています。
1990年代以降もCDで度々復刻盤が発売され、2010年にはバンドの“完全復活”を記念して高音質のSHM-CD仕様でリリース、2013年には「もう一度聴きたい80年代&90年代のオリジナルアルバム」の一本として限定盤が発売されました。
2017年にはデビュー35周年を記念し、当時のLPジャケットを復刻した紙ジャケット仕様のCDもリリースされています。
発売から数十年を経ても色褪せない作品として音楽ファンに愛され続けている証と言えるでしょう。
実際、2022年および2023年に実施されたネット投票による「安全地帯のアルバム人気ランキング」では、本作が2年連続で第1位に選ばれています。
世代を超えて多くの人々の心に響き続けるアルバムであることが、こうした結果からもうかがえます。

カイエダ

リリースから約40年が経った今、『安全地帯III〜抱きしめたい』を改めて耳にすると、その洗練されたサウンドとロマンティックな歌詞の世界が静かに胸にしみわたります。
当時の熱気や甘く切ない思い出がよみがえるようでありながら、不思議と少しも古びた感じがしない瑞々しさも備えています。
KINGの包み込むような甘く切なく深い歌声とともに、このアルバムは今も聴く人の心をそっと抱きしめ、どこか後ろめたい、いけない恋心を抱いてしまう、胸が締め付けられるような気持ちを届けてくれるに違いありません。

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