アルバムレビュー『13』(サーティーン)Black Sabbath

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アルバムレビュー『13』(サーティーン)Black Sabbath
カイエダ

カイエダです。
Ozzyの逝去から数ヶ月。未だ彼の軌跡を追う日々です。
今回は、Ozzyが戻った!Black Sabbathのスタジオ・ラスト・アルバム「13」をレビューしていきます。

これが…!ファンが本当に求めていたBlack Sabbath!

『13』(サーティーン)は、イギリスのヘヴィメタルバンド、Black Sabbath(ブラック・サバス)の19枚目のスタジオ・アルバムです。
2013年にリリースされました。
Sabbathとしては前作『Forbidden』からなんと18年ぶりというブランクを経て発表された、まさに「満を持して」の一枚。
なのですが…!
このアルバムの特筆すべきは、オリジナル・メンバーであるOzzy Osbourne(オジー・オズボーン。『Never Say Die!』(1978年)以来。この記事では以降「Ozzy」)、そしてGeezer Butler(ギーザー・バトラー。『Cross Purposes』(1994年)以来。この記事では以降「Geezer」)が久しぶりにスタジオ・アルバムに戻ってきた作品ということです。
リリース当時から大きな話題を呼びました。

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一方で、同じくオリジナル・メンバーであるドラマーのBill Wardは、健康面や契約面の事情から残念ながら不参加となっています。あらら…。

このアルバムは世界中で熱狂的に迎え入れられました。
イギリスでは『Paranoid』以来、じつに40年以上ぶりとなる全英1位を獲得。
そしてアメリカでは、バンド史上初の全米1位という快挙を達成。
長いキャリアの最後の最後で、ようやく「チャートがバンドに追いついた」ような、そんなドラマチックな結果になったのも、この作品の物語性を一層濃くしている気がします。

Black Sabbathは2017年をもって解散しているため、『13』は結果的に彼らのラスト・スタジオ・アルバムとなりました。
そう思って聴くと、この作品に刻まれた一音一音が、ただの“最新作”ではなく、半世紀にわたるダークなHeavy Metalの歴史を締めくくる、最後の章のように感じられます。

発売当時の解説では、「35年ぶりにオリジナル・メンバーの3人が揃ったBlack Sabbath、超話題のニュー・アルバム」として大きくフィーチャーされていました。
1969年の結成以来、ハードロック/ヘヴィメタルはもちろん、パンクやグランジにまで計り知れない影響を与え続けてきたBlack Sabbath。
その“元祖”メンバーであるTony Iommi(トニー・アイオミ。g この記事では以降「Tony」)、Ozzy(vo)、Geezer(b)が、ニューアルバムを携えて帰ってきた、という事実だけでもう胸がいっぱいになりますよね。

プロデュースを手掛けたのは、AC/DC、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、メタリカ、スレイヤー、そしてアデルまで手掛けてきた名プロデューサー、リック・ルービン。
ドラムには、オリジナル・ドラマーのBill Wardに代わって、Rage Against The MachineのBrad Wilkが参加しています。
この人…。本当にSabbathが好きなんだな…と聴いていて思っちゃう。

全曲が2012年に改めてレコーディングされた完全新曲であり、「もし初期Sabbathが今という時代に現れたら?」という壮大な実験を、オリジナルSabbathとリック・ルービンのタッグで形にしたようなアルバムです。
リリース前にはオセアニア地域のツアー、そして2013年のOzzfestでの来日公演、夏以降の北米ツアーも決定するなど、バンドの“最後の大巡礼”の幕開けを告げる作品でもありました。

“13"内容

参加ミュージシャンは以下の通りです。

Black Sabbath

  • Tony:ギター
  • Geezer:ベース
  • Ozzy:ボーカル、ハーモニカ

セッション・メンバー

  • Brad Wilk(Rage Against The Machine):ドラム、パーカッション

表向きのクレジットはこれだけなのですが、この4人で鳴らしている音はとにかく「バンドそのもの」という感じで、余計な装飾をそぎ落とした、生々しいヘヴィロックに仕上がっています。

ギターのTonyは、言わずと知れた“リフの発明家”。
このアルバムでも、重くうねるリフから、ブルースのルーツを感じさせるソロまで、その創造力はまったく衰えていません。
Geezerのベースは、単に土台を支えるだけでなく、時にギター以上に前に出てきて、サウンド全体をざくざくと切り裂いていきます。
Ozzyのボーカルは、若い頃のような無茶苦茶さや危うさをそのままにはしていないものの、「Ozzyにしか出せない」独特の気怠さと毒気をしっかり保ち続けています。というか、Ozzyが歌えば全部Ozzyだから笑
そこに、Brad Wilkのタメの効いたドラムが加わって、初期Sabbathの持つドゥーミーなグルーヴを、現代的なロック・サウンドとして再構築している印象です。

“13"収録曲(はボーナス・トラック)

  1. End of the Beginning
    …アルバムの幕開けを飾る、まさに“これぞBlack Sabbath”と言いたくなる8分超えの大作。
    重く垂れ込める霧のようなイントロから、じわじわと世界を侵食していくようなリフ、そこから怒涛のように押し寄せるパートチェンジまで、1曲の中にBlack Sabbathのエッセンスが詰め込まれています。
    最初の数分で窒息しそうになるくらいの重さなのに、気づけばその重さが心地よくなってしまう…。
    そんな“危険な快感”を味わわせてくれるオープニングです。
  2. God Is Dead?
    …タイトルからしてBlack Sabbathらしさ全開。
    楽曲そのものも、ゴシックな雰囲気と現代的なグルーヴが絶妙に混ざり合った名曲。
    じわじわと締め付けてくるような前半のドゥームから、一気にうねり出す中盤以降の展開まで、緊張と解放のバランスが本当に見事で、「1曲目と2曲目があるだけで、このアルバムの存在価値は十分すぎる」とさえ感じてしまいます。
    MVも皮肉めいてて彼ららしいです。
  3. Loner
    …横ノリの効いたグルーヴ・メタル曲。
    Rage Against The MachineのBrad Wilkが叩いている意味を改めて実感します。
    ファンキーさとハードさを兼ね備えたドラミングなのに、ちゃんと「Sabbath的なタメ」を大事にしているので、Bill Wardとは違うのに、ちゃんとBlack Sabbathとして成立している。
    オリジナル・ドラマー不在という不安要素を、きちんと音で説得してくれている気がしました。
  4. Zeitgeist
    …静かでサイケデリックな曲。
    若い頃のOzzyと今のOzzyの両方が、同時にそこにいるような不思議な感覚になります。
    かつて「Planet Caravan」や「Solitude」で見せた、あの幽玄で淡々とした歌い方が、年月を経てさらに深くなって戻ってきた感じ。
    派手な高音を張り上げるわけではないのに、静かな闇の中にぽつんと灯るランプのように、歌声だけが浮かび上がってくるのが、とても印象的です。
  5. Age of Reason
    「重くてドラマティック」という、Sabbathならではの持ち味が全開。
    Dioが歌っても似合いそうなメロディ。それでもOzzyが歌うことで一気に“Sabbath印”になってしまう…!!!このあたりは、Tony IommiにとってのBlack Sabbathが、ただの懐かしいプロジェクトではなく、今もアップデートし続けている「彼の音楽そのもの」であることを感じさせてくれます。後半にいくにしたがって、言葉を失う感動が待っています…!
  6. Live Forever
    …リフの転調がとても良い…!"Well, I don’t want to live forever, but I don’t want to die."の歌詞は私の年齢でも切実です。この頃のメンバーは60代中盤〜後半。おいおい、もうあちこちガタ来てるぜって話に、自ずとなっていたんじゃないかなと思うんです。久しぶりに一緒に曲作りしていたら。そんななか生まれた曲なのかな、とか勝手に思っちゃいました(ほんと勝手…)。
  7. Damaged Soul
    …彼ら(Tony?)のルーツであるブルースに真正面から向き合ったような曲で、ずるずると地を這うようなギターと、絡みつくベースのコントラストが本当にたまりません。Ozzyが歌うとぜんぜんブルースっぽくなくなるのが「らしい」ですよね笑
    まるでスタジオでのジャムセッションを、そのままパッケージしたかのような生々しさがあって、「ああ、この人たちはやっぱり“バンド”なんだ」と、改めて思い知らされます。
  8. Dear Father
    …ヘヴィでドラッギーなパートと、グルーヴィなパートの揺れの中で、“いかにもSabbath”な邪悪さが最後まで途切れません。終盤に、デビュー曲「Black Sabbath」を思わせる雨音や鐘の音が現れる仕掛けには、思わず「おぉ…」と唸ってしまいました。
    デビュー作から始まった長い旅路が、ようやくここで一周して、元の場所に戻ってきたような感覚。
    最後のスタジオ・アルバムにこのエンディングを持ってくるセンスに、心が躍りました。
  9. Methademic
    …これがボーナストラックなのかい、ってツッコミを入れたくなります。クセのあるしつこいリフがTonyっぽいです。地獄で会おうって言ってますけど、あなたは確実に天国に行ってるじゃないかってさらにOzzyにツッコみたくなる。そんな歌です。
  10. Peace Of Mind
    …このリフや転調の具合を聴いて、私は「人間椅子の曲?」と思ってしまったのですが、人間椅子がSabbathリスペクトだから、そういう逆転現象起こってる感覚を抱きました。
  11. Pariah
    …ファンキーさと不穏さが同居した感じは、今のヘヴィロックとも自然につながっていて、Black Sabbathが現役バンドとして2010年代も通用することを証明しているように感じます。
  12. Naïveté in Black
    …スピード感のあるメタルチューンで、「速い曲もやりますけど?」と言わんばかりの勢い。それでもSabbathだからこその「重さ」がただのスピード狂じゃない感じでいいですよね…!

ボーナストラックも、このアルバムの作品としては、ぜひまとめて聴きたい流れです。

“13"率直な感想

『13』を初めて通して聴いたとき、一番強く感じたのは、「これは懐かしさだけで作られた再結成アルバムじゃない」ということでした。
初期Black Sabbathらしい、ミディアム~スローのテンポに乗せた重いリフや、不穏な空気をまとった展開はたしかにたくさん出てくるんです。

「あ、このフレーズ、どこかで聴いたような…?」と思わせる瞬間もあれば、あの有名な鐘の音や、突然スピードアップする展開など、セルフ・オマージュのような仕掛けも少なくありません。
でも、何度も聴き込むうちに、これは単に「昔っぽいことをもう一度やった」のではなく、あくまでも今の彼らの感覚で、初期の世界観をアップデートした作品なんだと、じわじわ分かってきました。

Tony Iommiのギターは、Ozzyが「重くて暗いリフを作らせたら世界一」と評した通り、相変わらずヘヴィで不穏。
なのに、その一音一音には、長い時間を音楽と共に過ごしてきた人だけが持つ「余白」や「間」が感じられます。

Geezer Butlerのベースは、年齢をまったく感じさせないどころか、むしろ今が全盛期なのでは?と思うほどアグレッシブ。
ギターの影に埋もれることなく、同じくらいの存在感でうねりまくっています。

そしてOzzy。
若い頃のような激しさは薄れているのに、声の奥にある“底なし沼”みたいな暗さはそのまま。
静かな曲では、感情を切り離したような淡々とした歌い方なのに、それが逆に不気味で、どうしようもなく切ない。
エモーショナルなのに、決して大声で泣き叫んだりしないところが、Ozzyらしいです。

Amazonレビューなどを見ても、このアルバムはかなり高い評価を集めていますが、その多くが

  • 「初期サバスを思い出させるのに、ただの焼き直しではない」
  • 「ヘヴィなのに、純粋に音楽として素晴らしい」
  • 「ギーザーのベースの凄さを再認識した」
    といったポイントに触れていて、とても共感しました。

「古臭いハードロックのど真ん中」と言われれば、たしかにそうかもしれません。
でも、その「古臭さ」は、適当に真似して作れるものではなく、歴史と経験を重ねてきた人たちだけが鳴らせる音の厚みなんだと思います。
最近のモダンなメタルとは違うけれど、だからこそ、「こういうロックが聴きたかったんだ」と心から感じさせてくれる一枚。

デビューから40年以上を経て、ようやく全英・全米のチャート1位に輝いたことも含めて、「バンドが時代に追いついた」のではなく、「時代がようやくBlack Sabbathに追いついた」という表現がぴったりのアルバムなのではないでしょうか。

まとめとして

ずいぶん長文になってしまいました。
お読みくださった方、ありがとうございます。
ラスト・スタジオ・アルバムという事実を知ってから聴くと、どうしても感傷的になってしまいます。
ですが『13』は私の解釈では、決して「思い出づくり」の作品ではありませんでした。
むしろ、「今この瞬間のBlack Sabbath」としての誇りと、長い歴史の中で積み上げてきたものを、重ね合わせて提示した、堂々たる終幕すぎるよ…!と感嘆するばかりです。

カイエダ

派手さよりも重さを、速さよりもタメを、若さよりも年輪を選んだ彼らの答えが、この『13』というアルバムに確実でいて柔らかに刻まれているように感じます。生き様を感じさせてもらいました。